こんにちは。管理人の中村佳太です。
これまで私は様々な公文書を情報公開請求により入手してきましたが、8月に傍聴した委員会について「これはぜひみんなに音声で聴いてほしい」と思い、はじめて「委員会の録音データ」を情報公開請求しました。調べてみたら音声データも公文書として扱われるとのことだったので。
しかし!
議会の決定は「非公開」。
しかも、その理由は到底納得できるものではありませんでした。
こちら↓が役所から届いた非公開決定通知書です。
そこで私は、この非公開処分に対する審査請求(不服申し立て)を行うことを決め、審査請求書を提出しました。
こちら↓が提出した審査請求書です。
「審査請求の理由」は渾身の力を込めて書いたため長文となったので別紙記載としました。
以下、その全文を掲載します。
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[審査請求の理由]
請求人は実施機関である議会に対し複数の委員会の録音データを公開請求したが「非公開」との決定を受けた。この決定が不服であるため審査を請求する。
請求理由について、下記の通り項目に分けて述べる。
- 項目1. 委員会の録音データの公開が必要である理由
- 項目2. 非公開の根拠が不当である理由
- 項目3. 補足検討事項
項目1:委員会の録音データの公開が必要である理由
まず、そもそもなぜ委員会の録音データの公開が必要であるかについて理由を述べる。特に「なぜ会議録ではダメなのか?」に重点を置く。
1つ目の理由は、会議録の作成完了には時間が掛かるからである。大山崎町議会事務局の話によると、委員会の会議録の作成が完了するのには通常数か月は掛かるとのことである。当然ながらその数か月の間に事態が変わったり、課題が悪化することも考えられるが、会議録の完成を待っていては住民がその詳細を知るタイミングは随分と後になってしまう。これは「開かれた議会」を目指す大山崎町議会の方針に反するばかりでなく、住民の「知る権利」の阻害要因でもある。この点、録音データは委員会終了時点ですでに存在しており、それを公開することは住民等へのスピーディーな情報提供につながることは間違いない。なお、委員会を傍聴に行けばその内容をリアルタイムで知ることは可能だが、平日の昼間に開催される委員会へ傍聴に行くことが多くの住民にとって困難であることは言うまでもないことである。
加えて補足すると、一部の自治体ですでに実施されているように、委員会の動画がリアルタイムもしくは開催後数日以内に公開されるのであれば録音データの公開の必要はほぼ無い。しかし、現時点でその予定はない(大山崎町議会では議会の録画配信がスタートしたが、その対象範囲は本会議に限られ、委員会の配信は予定されていない)。また、もし今後委員会の動画配信がされることになったとしても、今回請求している過去の委員会については録画はされておらず配信は不可能であることにも留意する必要がある。
2つ目の理由は、会議録(文字情報)と比較して音声データでしか伝わらない情報があるからである。請求人はこれまでに何度も委員会を傍聴しているが、その際一部の議員による不規則発言や大声での発言を耳にし、場が混乱する場面に遭遇した。声を荒げた様子や室内のざわつきを確認するためには会議録では不十分であり、音声での公開が必要である。そして、こうした「会議録では知り得ない情報」には「誰が議論の停滞を引き起こしているのか」や「威圧的な態度で他の議員や執行部を委縮させているのは誰か」と言った重要な情報が含まれており、住民・有権者が知ることには大きな意義がある。
項目2. 非公開の根拠が不当である理由
次に、今回の「非公開」決定において実施機関が示した「非公開の根拠」が不当である理由を述べる。
実施機関である議会は、公開を求める録音データを公開しない根拠として「大山崎町情報公開条例第6条第1項第5号に該当」とし、具体的な理由を以下の通りとした。
「議会における公的な記録は公式の会議録であり、本件録音データは当該会議録作成のための補助的手段に過ぎず、会議録の作成に際して行われる一定の校正を経ない状態でこれを公開することは、不当に町民の間に混乱を生じさせる恐れがあるだけでなく、傍聴者の録音を禁止している趣旨が没却され、議会での率直な意見交換、意思決定の中立性が不当に損なわれる恐れがあるため。」(非公開決定通知書より)
上記は、非公開とする理由として複数の点において不当である。その理由をひとつずつ指摘する。
[指摘1]
まず、「本件録音データは当該会議録作成のための補助的手段に過ぎず」としているが、大山崎町情報公開条例第2条においては情報公開の対象とする公文書について以下の通り定義している。
「実施機関の職員(地方公務員法(昭和25年法律第261号)第2条に規定する地方公務員をいい、町立小学校及び中学校の市町村立学校職員給与負担法(昭和23年法律第135号)第1条に規定する職員を含む。以下同じ。)が職務上作成し、又は取得した文書、図画、写真(これらを撮影したマイクロフィルムを含む。以下同じ。)及び電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られた記録をいう。以下同じ。)であって、当該実施機関の職員が組織的に用いるものとして、当該実施機関が保有しているものをいう。」(大山崎町情報公開条例第2条より)
この定義において、「補助的手段であるか否か」は問われていない。
本件録音データが「職員(議会事務局の職員)が職務上作成し、当該実施機関(議会事務局)の職員が組織的に用いるもの(議会事務局として会議録を作成するため)として、当該実施機関が保有しているもの」であることはあきらかである以上、補助的手段であるか否かに関わらず、公開の対象とすべきである。
[指摘2]
次に、「会議録の作成に際して行われる一定の校正を経ない状態でこれを公開することは、不当に町民の間に混乱を生じさせる恐れがある」について指摘する。
本件録音データはすべて「一般人が傍聴可能な委員会」の録音データであり、つまり、「公開の場」で行われた会議の録音データである。「公開の場」で行われた議論を「公開」することにより「不当に町民の間に混乱を生じさせる恐れがある」というのは論理的に成り立たない。実際、すでに多くの地方議会や国会において委員会の動画のリアルタイム配信や翌日配信等がされているが、これらは公式な記録である会議録の作成前に公開されている。しかし、それによって「不当に市民・国民の間に混乱が生じ」ているとは到底言えない。このことから、実施機関の主張には根拠がないと言わざるを得ない。
なお、もし「不当に町民の間に混乱を生じさせる恐れ」があるというのであれば、実施機関側が具体的にどのような「混乱」がどのように「生じる恐れ」があるのか明確にすべきである。その際、本件においては請求した全ての委員会の録音データを非公開としているのであるから、「個別の議論の公開で生じる混乱の恐れ」ではなく、「一般的に委員会の録音データを公開した場合に生じる混乱の恐れ」について実施機関は説明する必要がある(特定の議論を公開することで混乱が生じる恐れがあるのであれば、その部分を除いた「部分公開」とするのが妥当である)。
[指摘3]
続いて、「傍聴者の録音を禁止している趣旨が没却され」について指摘する。傍聴者による録音を禁止している理由は定かではないが、「傍聴者の録音を禁止」との規則は、あくまでも傍聴者を対象に定められたものである。そもそも多くの町民は仕事や家事等により平日昼間に開催される委員会へ傍聴に行くのは困難である。そうした中で、傍聴へ行けなかった人がその委員会の録音データを聴きたいと望んだ場合に、「傍聴者の録音を禁止している」からと、傍聴者(=議論を聴ける人)に対する規則を理由に拒むのは筋が違う。なお、なぜ傍聴に行けなかった人にとって会議録の公開では不十分かについては、項目1で述べた通りである。
[指摘4]
次に、「議会での率直な意見交換、意思決定の中立性が不当に損なわれる恐れがあるため」について指摘する。これについては、[指摘2]で述べたことと同様の理由で不当である。ほぼ繰り返しになるが、あらためて記載する。
「公開の場」で行われた議論を「公開」することにより「議会での率直な意見交換、意思決定の中立性が不当に損なわれる恐れがある」というのは、やはり論理的に成り立たない。実際、すでに多くの地方議会や国会において委員会の動画のリアルタイム配信や翌日配信等がされているが、これらは公式な記録である会議録の作成前に公開されている。しかし、それによって「議会での率直な意見交換、意思決定の中立性が不当に損なわれ」ているとは到底言えない。このことから、実施機関の主張には根拠がないと言わざるを得ない。
なお、もし「議会での率直な意見交換、意思決定の中立性が不当に損なわれる恐れがある」というのであれば、実施機関側が具体的にどのような「不当に損なわれる恐れ」があるのか明確にすべきである。その際、本件においては請求した全ての委員会の録音データを非公開としているのであるから、「個別の議論の公開で生じる恐れ」ではなく、「一般的に委員会の録音データを公開した場合に生じる恐れ」について実施機関は説明する必要がある(特定の議論を公開することで生じる恐れがあるのであれば、その部分を除いた「部分公開」とするのが妥当である)。
項目3. 補足検討事項
項目2で述べた実施機関が非公開とした根拠の問題点以外で、非公開の判断が不当である理由を2点補足したい。
[補足1:香川県小豆郡土庄町のケース]
本件には重要な参考事案がある。本件と似た香川県小豆郡土庄町のケース(「情報公開請求却下決定処分取消請求事件」平成16年11月18日最高裁判所第一小法廷判決)で、これについて比較検討する。
土庄町のケースでは、本件と同様に住民が町議会の議事内容を収録した録音テープの公開を請求したところ、情報公開の対象となる情報には当たらないとして情報公開請求却下処分を受けたため、町民側が提訴、最終的に最高裁で棄却されている(非公開が決定)。ただし、土庄町のケースでは、同町の情報公開条例における公開対象となる情報について「決裁又は閲覧の手続が終了し」ているものと規定されていたため、この録音テープが「決裁又は閲覧の手続が終了しているか否か」が主たる争点として争われたものである。大山崎町の情報公開条例にはこのような規定はなく、決裁又は閲覧の手続が終了していなくとも公開の対象となることから、同判決を当てはめるのは適当ではない。
さらに重要な点として、最高裁の判決文の中に下記記述がある。
「会議録が作成され決裁等の手続が終了した後は,本件テープは,実施機関たる被上告人において管理しているものである限り,公開の対象となり得よう。」(「情報公開請求却下決定処分取消請求事件」平成16年11月18日最高裁判所第一小法廷判決の判決文より)
つまり、土庄町の条例が規定する「決裁等の手続が終了している」との条件は判決時点では満たしていないものの、条件を満たした後には議会の録音テープは「公開の対象となり得る」と最高裁は判断している。この判断から考えれば、そもそもこうした条件を規定していない大山崎町においてはすぐに「公開の対象となる」と考えるのが妥当である。
[補足2:議会改革特別委員会(令和5年10月27日)での議論]
過去に大山崎町議会においてなされた本件に関連する議論として、令和5年10月27日の議会改革特別委員会での議論を参照したい。
この会議では「議会の動画配信」について議論がされたが、その中で西田光宏議員が音声配信について提案している。西田議員は「現状すでに録音はしているのだから、音声配信ならすぐに実現できるのではないか」といった主旨の発言をし、事務局は「できる」と回答している(会議録19頁)。この議論は動画のリアルタイム配信や翌日配信などを議論している文脈での発言であるから、会議録完成前に録音データを音声配信することを想定した発言であることは明白である。このときこれ以上の議論は行われなかったが、少なくとも他の議員は西田議員の提案に関して一切の反論や問題点の指摘などを行っていないことは、本件を検討する上で重要だと考える。なお、議会改革特別委員会のメンバーは議長を含む全町議(12人)である。
以上、様々な観点から検討してきたが、これらを踏まえ、本件録音データを非公開と決定したことは不当であり、即時公開を求める。
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読んでいただいた方には、今回の非公開処分が如何に不当かはご理解いただけたと思います。
近く本件を審査する有識者による審査会が開かれるそうです。
この事案は全国で議会の音声データの情報公開請求を検討している方には参考になるかもしれません。
進捗があり次第、またご報告します。
◇
<補足>
補足というか、本件に関連して明らかになった別の問題について、最後に少しだけ触れておきます。
上記の非公開決定通知書の最後に「この決定に不服がある場合には審査請求をすることができる」と書いてある通り、審査請求は制度として設けられてはきたのですが、実際にはこれまで大山崎町において審査請求が行われた事例はなく、今回が初めてなのだそうです。
それで今回「審査請求をしたい」と役場に申し出たところ、以下のような回答がありました。
「審査請求の手続きが決まっておらず、審査請求書の様式もない。今から作るので待ってほしい」
制度があるのにすぐに手続きができない、なのにこちらは3箇月以内に手続きしないとダメ、というのは問題だと思ったのですが、仕方がないので待つことにしました。
ただ、さらに驚いたのは次の回答です。
「審査請求について審査する審査会の委員(有識者)が現状いない(委嘱されていない)。通常は町長が任期2年で2年毎に委嘱しているが、手続きが漏れていたのか現在は委員が委嘱されておらず、審査会もすぐには開けない」
唖然としました。
調べてみると過去は2年ごとに審査会が開かれ委員委嘱が行われていたようですが、それが行われず、いまは委員がいない状態、つまり審査会が開けない状態となっているようです。
審査請求したい旨を申し出てから3週間以上たって審査請求書の様式が届き、無事に提出することができましたが、審査会については「委員候補者と第一回審査会の日程調整を行っている」状態とのことです(10月8日時点)。
本来であれば非公開決定通知書が届いたらすぐに審査請求ができて、日程調整の後に審査会が開かれ、結果によっては情報が公開される、という流れになったはずが、役所側の手続きの不備により、どんどんその時期が遅くなっていっていることは非常に問題だと思います。
今回の件はもう仕方がないとしても、今後はこのようなことがないよう、他の制度も含めて「ルール上はできるけど手続きが決まっていない」項目の洗い出しと早期の手続き作成を実施していただきたいです。
管理人・中村佳太